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Scene.5 本屋はいつも危険な香り。

高円寺文庫センター物語⑤

「店長、『イカ天』観てくれたかな?」

「なんばい、その感じ悪か東京弁は」

「ベストヴォーカル賞を取ったばい」

「テレビを観とったけん知っとるけんが、バンドは勝ち抜けんとね」

「お土産にイカ天ステッカーあげるわ、司会の三宅裕司は店長に似とったばい」

「いらんこと言わんと! なま相原勇ちゃんは可愛かね?」

こんな会話を大声でしていたら、お客さんも勘違いするだろう。

ある時、高円寺駅前を歩いていたら聞こえてきた会話・・・・

「先輩、この奥にある文庫センターを知っていますか」

「おぉ、九州弁が飛び交っとるけん知っとる知っとるとよ」

「はい、ボクは直していてもシンパシー感じましたよ」

ゲゲゲ、これはいかんと店に戻って話したら「店長、影響を受けやすいんだもん」と静岡出身コンビに突っ込まれた。

「言っとくけどさ、きみらの静岡弁の『なになに_ら~』は影響ないよ」

「違いますよ。富士宮でも『ら』なんて、最後に付けて言わないところもあるんです」

中央線にあって、新宿に近い、物価が安い、ロックテイストに溢れているからと、全国から若者が集まる高円寺は、お国言葉のクロスロード。

「店長は、朝日新聞があさし新聞になっていますからね!」

 

アタマの中には、THE SUPREMESの「Baby Love」が流れる。

Scene.5 本屋はいつも危険な香り。

 

バイトくんたちのランチを終わらせて、ボクが最後のランチをとるのは3時頃。それからわずかな時間を、好きなコーヒーと読書タイムで自分の世界に浸る至福のひと時。

さって店に戻るかなっと、歩く道すがら営業用ハイテンションに戻してく・・・

あれ! 店の外で、レジの方を窺っている挙動不審な奴がいる。店の外に出している、求人情報詩を2・3冊持って買わずに歩き出した!

バカな奴だな、ボクの方に一直線じゃないか。胸ぐら掴んで「にいちゃん、ちょっとおいで」

本屋の天敵、万引き犯を捕まえた。

書泉で書店デヴューしてすぐに万引きに遭遇したから、トラウマになって敏感に反応できる。これで、何度目の万引き犯だ?!

あまりにも突然の捕捉に遭って面食らったのか、こいつは大人しくバックヤードに連行された。

話を聞けば苦学生、バイトをしなければ学業も疎かになりかねないと。本当かどうかはわからないが、大学に通報すると言ったら涙流して謝る姿に「150円や200円の窃盗で人生を棒に振っていいの」と厳しく言い聞かせた。

住所氏名を書かせたうえで、バイトくんたちに「こいつの顔をしっかり覚えといて」と、万引き犯に釘を刺して放免。

経験から初犯と思えた判断だけど、警察を呼ぶと半日がかりの時間を取られてしまうからというのもあった。

こんな万引き騒動は、まだまだ序の口だったな・・・

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のがわ かずお

1951年 東京生まれ。書泉を経て、高円寺文庫センター店長。その後、出版社のアートン・ゴマブックス・亜紀書房顧問。本屋B&B、西日本出版社などにかかわる。 温泉とプラモデルと映画を、こよなく愛する妖怪マニア。共著『現代子育て考5.男の子育て』(現代書館)、『独断批評』(第三書館)。


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